マーケティングは、企業が商品やサービスを売り込むための活動です。時代とともに消費者の価値観や行動様式が変化するなかで、マーケティングの考え方や手法も進化してきました。
本記事では、マーケティングの第一人者であるフィリップ・コトラーが提唱するマーケティングの段階「マーケティング1.0〜5.0」までの変遷と、新たなカスタマージャーニーのフレームワーク「5A理論」について解説します。
ライター:タイスケ|Taisuke
事業会社(日系および外資)でマーケティング歴10年以上。戦略立案など上流から広告やセールスライティングなどの下流までをワンストップで推進できることが強みです。豪州Bond大学でMBAを取得しており経営学にも精通しています。著者「マーケティング思考のセールスライティング基礎と定石」
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目次
フィリップ・コトラーとは
フィリップ・コトラー(Philip Kotler)は、アメリカ出身の経営学者で、現代マーケティングの第一人者として知られています。ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院SCジョンソン特別教授。コトラーは、マーケティングの4P(Product、Price、Promotion、Place)やSTP(Segment、Targeting、Positioning)などのマーケティング理論を提唱し、現代マーケティングの基礎を築きました。また、マーケティング3.0やマーケティング4.0などの新たなマーケティングの概念も提唱し、マーケティングの考え方の進化に大きく貢献しています。
マーケティング1.0
まず、マーケティング1.0は製品中心の時代でした。主な焦点は製品の販売にあり、マーケティングの4P(Product, Price, Promotion, Place)が重要視されていました。この時代のマーケティングは、消費者の要望よりも製品の機能性や品質に注目していました。
マーケティング1.0時代に成長した企業の例としては、フォード・モーター・カンパニーを挙げることができます。フォードは20世紀初頭に革新的な製品中心の戦略を採用しました。その代表的な例が、モデルT車の導入です。この車は、大量生産により低価格を実現し、多くのアメリカ人が手に入れることができるようになりました。
フォードの成功は、製品の機能性と生産効率の追求に重点を置いたマーケティング1.0の典型的な例です。この時代は、消費者の選択肢が限られていたため、品質の高い製品を効率的に生産し、広範な市場に供給することが主な成功要因となっていました。
マーケティング2.0
消費者ニーズに焦点を当てたマーケティング2.0では、STP(Segment, Targeting, Positioning)モデルが中心となりました。製品の機能性に加えて、消費者が何を求めているのか、どのような価値を重視しているのかが重要になってきたのです。
マーケティング2.0の時代に成長した企業の例としては、プロクター&ギャンブル(P&G)が挙げられます。この時代は、消費者のニーズや欲求を満たすことが中心であり、P&Gはその代表的な成功事例です。
P&Gは、消費者の生活とニーズに深く根ざした製品開発とマーケティング戦略で知られています。彼らは消費者研究に重点を置き、顧客の日常生活に対する深い理解に基づいて製品を開発しました。例えば、タイドやパンパースなどのブランドは、消費者の日常の問題に対応するために開発され、大きな成功を収めました。
マーケティング3.0
マーケティング3.0は社会的貢献と企業ミッションが中心になりました。企業は単に製品やサービスを提供するだけでなく、社会に良い影響を与えることが求められるようになりました。この段階で成長した企業の事例としては、環境保護や社会貢献を重視した企業戦略を採用した企業が挙げられます。
マーケティング3.0時代に成長を遂げた企業の代表例として、スターバックスを挙げることができます。マーケティング3.0では、社会的な価値と企業ミッションが重視される時代であり、スターバックスはこのアプローチを効果的に取り入れた企業の一つです。
スターバックスの成功は、単に優れたコーヒー製品を提供するだけでなく、その製品とブランドが持つ社会的な意義にも注目が集まっています。例えば、スターバックスはフェアトレードコーヒーの導入や、環境保護活動、地域社会への貢献など、社会的責任を重んじる多くのイニシアティブを展開してきました。
また、スターバックスは「第三の場所」としての店舗コンセプトを打ち出し、顧客に単なるコーヒーショップを超えた体験を提供しています。このように、顧客にとっての価値を製品だけでなく、ブランドとしての体験全体にまで拡張することで、深い顧客ロイヤルティを築き上げました。
マーケティング4.0
デジタル時代の到来と共に、マーケティング4.0ではオンラインとオフラインの統合が重要視されました。 5A理論:認知(aware)、訴求(appeal)、調査(ask)、行動(act)、推奨(advocate)がこの段階の核となり、顧客の経験全体を見渡すことが求められます。購買行動率(PAR)とブランド推奨率(BAR)は、この理論の効果を測る重要な指標です。
- 購買行動率(PAR)= 購買行動をとる人の数 / 認知している人の数
- ブランド推奨率(BAR)= 自発的に推奨する人の数 / 認知している人の数
マーケティング4.0の時代に成長を遂げた企業の例として、Amazonを挙げることができます。マーケティング4.0は、デジタルと物理的な世界の融合に重点を置いており、オンラインとオフラインの統合、カスタマージャーニーの個別化、そしてデジタルテクノロジーの活用が特徴です。Amazonはこれらの要素を巧みに組み合わせ、業界をリードする地位を築きました。
Amazonの成功の鍵は、オンラインショッピング体験の革新にあります。同社は顧客の購買行動をデータとして収集し、そのデータを活用して個々の顧客に合わせたパーソナライズされた推薦やサービスを提供しています。また、Amazon Primeなどのサービスを通じて、顧客に迅速で利便性の高いオンラインショッピング体験を提供し、顧客ロイヤルティを高めています。
マーケティング5.0
テクノロジーを用いて個々の消費者に合わせたカスタマージャーニーの提供がマーケティング5.0の特徴です。特に、インターネットに親しんだZ世代やアルファ世代に向けた新しい価値提供が重要視されています。テクノロジーを駆使したパーソナライズや顧客体験の最適化がこの時代のキーワードです。
マーケティング5.0の時代に成長を遂げている企業の一例として、テスラ(Tesla, Inc.)を挙げることができます。マーケティング5.0は、先進技術と人間の相互作用を重視し、個々の消費者に合わせたパーソナライズされた体験を提供することに焦点を当てています。テスラはこの新しい時代の要求に応える形で、自動車業界における革新を推進しています。
テスラの成功は、革新的な電気自動車(EV)と、それを支える高度な技術に基づいています。同社は、単に環境に優しい車を提供するだけではなく、車両の性能、デザイン、そしてユーザーインターフェースにおいても先進的なアプローチを採用しています。これにより、テスラは従来の自動車メーカーとは一線を画すブランドイメージを築き上げました。
まとめ
コトラーのマーケティング理論は、時代と共に変化し、より複雑で洗練されたものへと進化してきました。1.0から5.0への移行は、単に製品の販売から、消費者のニーズ、社会的責任、デジタル統合、そして最新テクノロジーの活用へとシフトしています。今後もマーケティングは新たな時代のニーズに応じて進化し続けるでしょう。